あるクラスで人気のある男の子は「ものまね」が得意で
先生のマネからテレビタレント、果ては動物のマネをすることでみんなを楽しませ、笑わせることのできる少年。
ある時同い年くらいの少女が近くにやってきて
その少女もまたその男の子に楽しませてもらい、だんだん好意をもつ。
でも少女はどこか気づいてた。ものまねばかりしてる彼の本当の顔は声は、どこにあるんだろう?
心はどこにあるんだろう?と。
ねぇ、あなたを見せて
といっても彼はおどけてばかり。楽しいものまねを見せてくれるだけ。
彼もまた、本当の自分がどこにいるのか、何であるのかなんてわかっていないのだ。
今まで好意を持ってくれた女の子も何人かはいてくれた。
でも本当の僕だとか、そういうことへの興味よりも。
ただ楽しい人だからっていうのが主な理由だと思う。
彼女もまたきっとそうなのだろう、と彼は思った。
だから難しいことは考えず、楽しませることで自分も楽しんでた。
それでも彼女は
ねぇ、あなたを見せて、と言ってきた。
僕がいくらものまねをしても首を振った。
はっきり言ってそんなの僕もわからないのに。
でも彼女といるときは比較的僕は楽でいられた。ネタを求められてはいないからかもしれない。
でも僕はそうすることでコミュニケーションをとってきたし、それ以外にコミュニケーションをとる術を知らない。
ある日
ちょっとはでてきたね、と彼女は言った。
僕は意味がわからなかった。
何か僕に変化はあったのだろうか。
またある日
ふたりで出かけた。
そうそうその調子、と彼女は言った。
そういった瞬間、鈍い音が飛び込んで来た。
その一瞬。僕が目を閉じて、また目を開けるまでに
彼女はそこに横たわっていた。
僕はすぐにかけつけた。
ねぇ、大丈夫?何があったの?
彼女は返事をしなかった。
僕の中の何かが音を立てて崩れた。
僕の中で固く守っていた、でもそれと意識できなかった部分が、一瞬のうちに崩れた。
僕は叫んだ
なんて言ったかなんて覚えてない。
声になんてならない。
ただただ目の前の現実へじたばた足掻いているだけだった。
彼女を強く抱きしめる。
まるで世界が終わりの日を迎えたみたいに。
微かに、君がうなずいた。
僕の頬には涙がつたっていた。