handmade

日記ですな。私が生きた証。 私が自ら作り上げていく人生。 第3幕。

世界が動く

「あなたとこの前に会った日の夜に彼と会って話したの。そして別れたの」と緑は言った。

「君のこと大好きだよ」と僕は言った。「心から好きだよ。もう二度と放したくないと思う。でもどうしようもないんだよ。今は身うごきとれないんだ」

「その人のことで?」

僕は肯いた。

「ねえ、教えて。その人と寝たことあるの?」

「一年前に一度だけね」

「それから会わなかったの?」

「二回会ったよ。でもやってない」と僕は言った。

「それはどうしてなの?彼女はあなたのこと好きじゃないの?」

「僕にはなんとも言えない」と僕は言った。「とても事情が混み入ってるんだ。いろんな問題が絡みあっていて、それがずっと長いあいだつづいているものだから、本当にどうなのかというのがだんだんわからなくなってきているんだ。僕にも彼女にも。僕にわかっているのは、それがある種の人間として責任であるということなんだ。そして僕はそれを放り出すわけにはいかないんだ。少なくとも今はそう感じているんだよ。たとえ彼女が僕を愛していないとしても」

「ねえ、私は生身の血のかよった女の子なのよ」と緑は僕の首に頬を押し付けて言った。「そして私はあなたに抱かれて、あなたのことを好きだってうちあけているのよ。あなたがこうしろって言えば私なんだってするわよ。私多少むちゃくちゃなところあるけど正直でいい子だし、よく働くし、顔だってけっこう可愛いし、おっぱいだって良いかたちしているし、料理もうまいし、お父さんの遺産だって信託預金にしてあるし、大安売りだと思わない?あなたが取らないと私そのうちどこかよそに行っちゃうわよ」

「時間がほしいんだ」と僕は言った。「考えたり、整理したり、判断したりする時間がほしいんだ。悪いとは思うけど、今はそうとしか言えないんだ」

「でも私のこと心から好きだし、二度と放したくないと思ってるのね?」

「もちろんそう思ってるよ」

緑は体を離し、にっこり笑って僕の顔を見た。「いいわよ、待ってあげる。あなたのことを信頼してるから」と彼女は言った。「でお私をとるときは私だけをとってね。そして私を抱くときは私のことだけを考えてね。私の言ってる意味わかる?」

「よくわかる」

「それから私に何してもかまわないけれど、傷つけることだけはやめてね。私これまでの人生で十分傷ついてきたし、これ以上傷つきたくないの。幸せになりたいのよ」

僕は彼女の体を抱き寄せて口づけした。

「そんな下らない傘なんか持ってないで両手でもっとしっかり抱いてよ」と緑は言った。

「傘ささないとずぶ濡れになっちゃうよ」

「いいわよ、そんなの、どうでも。今は何も考えずに抱きしめてほしいのよ。私二ヶ月間これ我慢してたのよ」

僕は傘を足もとに置き、雨の中でしっかりと緑を抱きしめた。高速道路を行く車の鈍いタイヤ音だけがまるでもやのように我々のまわりを取り囲んでいた。雨は音もなく執拗に降りつづき、僕の黄色いナイロンのウィンド・ブレーカーを暗い色に染めた。

The Beatles - Norwegian Wood

心から好きだしもう2度と放したくないと思う。

か。

できるのかな。そんなこと。